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「なにか違和感はありますか?」 今は声を出すべきではないと判断したため、その問いには首を横に振ることで答えた。 「じゃ、何か命令してみてくれる?それで防げてるか確認したいから」 「・・・」 命令か。後に残らないものがいいだろう。 何を言うべきか迷っていると「いい案があるわ」と笑顔で女性が言った。 「ロイドにプリン禁止令でいいわよ」 「ええ!?ひどいよラクシャータ!陛下、ラクシャータにたばこ禁止令出しましょう!」 煙いし、体に悪いし! 二人の科学者が、互いの好物を禁止するよう言ってくるので、成程、それはいい案だとルルーシュは視線を科学者の助手に向けた。 しっかりと相手の目を見て命令を口にする。 「セシル、今日のラクシャータとロイドの昼食は君が用意してくれ」 「はい」 「「え!?」」 その命令に、セシルはにっこりと笑顔で即答し、科学者二人は顔を青ざめながら驚きの声を上げた。 セシルの料理!? あの味覚破壊を起こす、ある意味兵器と化しているセシルの料理ですか!?彼女を料理人として宮廷に送り込めばそれだけで敵をせん滅出来るんじゃないかと真剣に話されたあの料理ですか!?年々悪い方向に腕をあげている、見た目だけは美味しそうなあの料理の事ですか!? 「なんだ、役に立ってないじゃないかこのコンタクト」 命令に即答されてしまい、失敗だとため息一つつき、少年は瞼を閉じた。その様子に科学者二人は首をぶんぶんと降って否定した。 「いえいえいえいえ!そんな命令だからですよ!!」 「セシル!今日の昼食作らなくていいからね!咲世子とカレンの母さんが用意してくれてるから、あんたはいいから!」 「え?ですが、せっかく陛下が料理をと」 「いいの!ギアスが効くかどうかのテストなんだから、君は断らなきゃだめなの!!」 空気読んで!! 「そうですか?では残念ですが陛下、そのご命令は聞けないようです」 心底残念という口調で、セシルはそう答えた。 セシルがそう口にしてくれたことで彼女の昼食から逃れることのできた科学者二人は心底安堵したと言う顔で息を吐く。 「・・・という事は、ちゃんと遮断できたのか」 「・・・ええ、そうみたいねぇ・・・ほんと、よかったわ・・・」 「お~め~で~とぉ~!これで陛下の視力は回復です!まあ、あとでちゃんと測定して視力が落ちていないか調べますが、視界に違和感とかはないですか?見えない場所があるとか、見づらいとかありません?」 「無い。ちゃんと見えている。・・・それにしても皆若いな」 この時代に来てから初めて皆の顔を見ることになるのだが、やはりあの頃より皆若い。それにラクシャータは髪も短いし、セシルは反対に長い。7年・・・いや、8年前か。自分の記憶とだいぶ違うようだ。 「当然ですよぉ。陛下だってこんなに小さいじゃないですか」 「C.C.さんぐらいですね、あの頃と変わらないのは」 あの当時協力してくれた二人は、にこやかな笑みを浮かべそう言った。 ラクシャータから、ロイドとセシルがこちらに来ると言う連絡が来た時には驚いたものだ。まさかブリタニアで得るだろう地位を蹴り、こちらに来るとは思わなかった。あちらに居る間にあの当時の技術も駆使し資金も引っ張ってきていて「シュナイゼルからもふんだくってきましたから、ランスロットの開発費は用意しなくても当分は大丈夫ですよぉ」と言ってきたのだ。 そして、第二皇子の学友という立場を利用し宮廷内にも入り込み、調査までしてきたという二人は、驚くべき情報をもたらしてくれた。 それだけではない。 「陛下、僕にとっての皇帝はルルーシュ陛下だけです。皇帝ちゃんやシュナイゼルに今更仕えるつもりはありません。そしてランスロットのパーツはただ一人、スザク君だけ。だから僕たちもここに置いてください」 「ルルーシュ様、お願いします」 誰にも負けることのない最強のKMFランスロットを製作したい。 そのパーツは最強の騎士、枢木スザクだけ。 それはつまり、スザクがユーフェミアの元に行くときは、彼らも共にここを去ると言う事になる。こちらの手の内を見せるべき相手ではない。 だが、スザクにランスロットを。 この日本を守るための騎士の鎧が欲しい。 その思いから了承した。 我ながら甘い考えだと思う。 それでも、共に居てくれるこの僅かな間だけでもスザクは俺の・・・。 科学者たちと会話をしていると、何やら騒がしい足音が聞こえてきた。ここは建物の地下施設。ここに来れる者は限られているし、間に何人もの人間がいるから来れるのは関係者だけなのだが、何かあったのだろうか。 足音のする扉へ視線を向けると、その扉は勢いよく開かれた。 「あっ!いた!ルルーシュ!!」 そこには蒼白になり、珍しく肩で息をしているスザクが居た。 記憶の中にある幼いスザクの姿そのままだから見間違える事はない。 「どうしたんだスザク、何かあったのか?」 こんな様子のスザクはここにきてから初めてだ。まさか敵に見つかったのか?科学者たちもまた警戒するような空気を身に纏ったが、スザクはこちらを気にすることなくルルーシュに駆け寄り、勢いよく抱きついた。 「よかった。庭から居なくなってるから、誘拐されたのかと」 泣いているのか、声を震わせながらルルーシュにしがみつく。 その腕も体も僅かに震えていた。 「誘拐?」 何の話だと、スザクの背に腕を回し、良く解らないがまず落ち着けと、その背をぽんぽんと叩いた。 「あ、ホントだ!C.C.、こっちよ!ルルーシュいた!」 見るとカレンも息を切らしていて、後ろにいるらしいC.C.に声をかけていた。 「何なんだ一体」 「何なんだじゃないよ!庭に居たのに、一人でどうやってここまで来たのさ!・・・って、あれ?ルルーシュ、目・・・」 顔をあげ、目に涙をため文句を言おうとしたスザクは、ルルーシュの顔を見てようやくその両目が開いている事に気がついた。何で、どうして?という顔のスザクに、ルルーシュは、お前な。と息をついた。 「ギアスを打ち破り、目を見えるようにすると言っていただろう。何を驚いているんだ」 ギアスが解けたから瞼が開いたんだ。 「あ、そうか。君、ホントにギアスを自力で破ったんだ・・・」 そんなに簡単に破れるものなんだ・・・ 「目を閉ざしている原因がギアス。つまり種は解っているからな。相手のギアスを上回る強い意志があれば解除が可能だと、ダモクレス戦でナナリーが証明していただろう」 「そうだけど・・・」 「そう簡単な話なのかしら?」 「少なくとも俺もナナリーも自力で解けただろう?」 「まあ、目の封印は記憶の書き換えを応用した物だから、効力は他のギアスに比べ薄いのかもしれないが、まさか解くと言ってすぐに解けるとは思わなかったぞ」 いまだ息を乱しながら、C.C.はそう口にした。 「でも、意思の力で解除って、正直半信半疑だったんだよね。ナナリーの場合シャルル皇帝がCの世界に飲み込まれて消えたでしょ。その影響かとも思ってた。でも・・・僕、君の生きろってギアス、自力で解除できなかったんだよね」 何度試しても駄目だったんだ。 その言葉に、全員の視線がスザクに向かった。 明るかった新緑の瞳は暗い色を滲ませ、その瞳は何も見ていないようにも見えた。 「君、ジェレミア卿に僕のギアスは解くなって命令してただろ」 暗く低い感情のこもらない声。 これが皆の言う、ゼロのスザクなのだろう。 視力が戻ったことで、その異様さをようやくルルーシュは目にすることとなった。 先ほどまで怒って、泣いて、喜んでいたスザクとは別人。 暗く淀んだ瞳、感情をそぎ落とした声音、身に纏う空気は冷たく、その顔には何も表情がない。 生気が一切感じられない生きながらに死んだモノ。 これは、俺の罪だ。 俺が放った言葉が生み出した、俺が自覚することなく放置した罪。 ようやく、向き合う事が出来る。 死の空気を纏った、ゼロのスザクと。 「話しは聞いている、お前が・・・死を望んでいた事をな」 ルルーシュは暗い瞳となった幼いスザクを見据え、そう口にした。 |